要約と感想 藤原正彦『国家と教養』 〜教養のあり方を考えたくなる本

感想 藤原正彦『国家と教養』 〜教養のあり方を考えたくなる本

藤原正彦著『国家と教養』(新潮新書)を読みました。
なにか閉塞感を感じる今日の空気を打ち破るために、
教養というものを考え直して、身につけたいと思わせられる本でした。

 

 

はじめに

読む前に立てた問題意識

 

@教養が国家とどうつながるのか?
A教養を立て直すためのヒントは?
B国家と教養は働く人の健康につながるのか?

 

要約

 

教養とは、この世にあふれる情報の中から自分にとって価値のある情報だけを選択し、判断する力の基盤。民主主義の国家が衰退しないためには、政治家も国民も教養を持つ必要がある。生とは何かを問う教養から「いかに生きるか」を問う教養が求められている。哲学や古典の人文的教養、政治、経済、地政学などの社会教養、物理や化学、統計を含めた科学教養に加えて、大衆文芸やマンガ、アニメなどの大衆文化教養を通して情緒や形の習得が必要だ。

 

 

印象に残った文

 

たかが古典です。それでも文学、数学、自然科学など、古典から得た教養が人々の精神にコペルニクス的転回を与え、世界史を大転換してしまったのです。古典からの教養とはそれほどの力を秘めたものなのです。

ギリシャ古典を失ったヨーロッパが、千年ほどの間、文化や科学の面で中国やイスラムに遅れを取っていた事実。ギリシャ古典を取り戻すことによりヨーロッパで産業革命が起こり、今日に至るまで西欧が世界を取り仕切っていることからも、その力の大きさが実感できました。

 

学問というのは、原理原則から出発して個別事象を統一的に解釈しようとするものですが、政治というのは一つ一つの事象が、多くの人間の利害、権力欲、嫉妬、面子などが複雑に絡まった個別事象であり、学問的あぷろーちではなかなか本質が見えません。そこで常にバランス感覚を保ち、一つの考えにのめり込まない姿勢が必要となります。

イギリスの教養層とドイツの教養層を比較した一文なのですが、とても応用が効く一文だと思います。頭では理解できていても、習慣に逆らって健康な行動をとることが難しいのが人間です。学問に対して政治というのは、健康面でいえば、医学に対する医療や保健指導だなと思いました。

 

西洋人にとってはともかく、日本人にとって、日本人としての形から切り離された教養とは、まさに根無し草であり、国難に当たって何の力も発揮できないひ弱な存在だったのです。

どうしても教養というと、西洋の哲学を読まなければという意識が自分の中にもありました。それも教養だけど、日本人の形に根差していないと本当に大事な時に力が発揮できないんですね。青雲の志を追いかけていた明治維新の前後を経て、西洋文明の取入れと格闘していた時代の日本人が考え悩んだことを学びたいです。その時代だから、先に進めなかったこと、見えなかったことを探して、先人の方を借りて新たな一歩を踏み出すことができるのではと感じました。

 

現代社会の病の本質は、世界的規模での民主主義の浸透に、各国国民の教養がついていっていない、という不合理にあったのです。

民主主義って本当に不思議な仕組みなんだなと思いました。ただ民主化が進めば、すべてうまくいくわけではない。皆が平等で、自由であるのに、教養を磨いて高め合わないといい社会、いい政治は実現できない。みんなが人格者みたいになれば、最高の世の中になるけど、その逆もしかりということですね。
放っておくと教養も身につけず怠惰な人が増える可能性が高い中で、コストを払ってでも教養を身につけたいとみんなが思える社会にしていかないといけないわけです。高尚なことはいいとして、地頭みたいな大事なことがマンガやアニメで広げていくのは、大事な事なんだと思いました。

 

良書を読むことで、人間はいくつになっても、あっという間に思考や感覚が鋭く、そして大きく変貌することが可能なのです。

実践するための読書は、まさしくこういう想いで本を読んで変化していく自分の記録を残そうと思って始めました。この一文に賛同しますし、これを実践して証を残したいです。

 

 

まとめ

この本から得られたこと

@教養が国家とどうつながるのか?

 

民主主義という補助線を引くと良く理解できると思いました。民主主義の国では国民が国のハンドルを握っているわけです。その運転の判断をする時に必要な力が教養だというわけです。一人ひとりの国民が、教養をもとにより良い選択を重ねないと国の政治がうまく回らないということだと理解しました。そうすると教養が、国家を左右するのは当然だと思います。

 

A教養を立て直すためのヒントは?

 

 教養がどのような歴史を経て今日に至るのかを整理することが第一歩でした。
教養の持つ力は、ギリシャ古典により復活したヨーロッパの歴史から学びました。教養が衰退した経緯は、ヒットラーの登場や第二次世界大戦を止められなかったドイツの教養層の歴史に学びました。教養を一部のエリートだけのものにしては、危険なんだということ。
 それを踏まえると、自国の文化や伝統に根差した情緒や形を大事にしつつ、哲学や社会、科学などを学ぶことが現代に必要な教養になるんだと思いました。

 

B国家と教養は働く人の健康につながるのか?

 

 政治を動かすことと予防医学を広めることには共通点があると感じました。
 政治は学問とは異なり、厳密な論理的正しさよりバランス感覚が重要だという指摘がありました。バランス感覚の欠如が、ドイツの民主主義の失敗ヒットラーを生み出すことにつながったという教訓です。
 睡眠を例に予防医学に置き換えてみます。土日も平日も毎朝同じ時刻に起床する方が、週明けの眠気や疲労感が少なくて済むという実験結果を紹介することがよくあります。「だから、土日に遅くまで寝ていてはだめですよ」と話すと必ず反発にあいます。「土日ぐらいゆっくりさせてくれ。」こんなとき、平日忙しくしている働く人がすんなり受け入れられる文脈で伝えないと、伝わらないんだなと学びました。
 そのヒントは、大衆文化教養を身につけて共感的なメッセージにして伝えることなんだと気づきました。

 

これから実践したいこと

 

藤原氏の提唱する大衆文化的教養をもっと取り入れようと思います。マンガやアニメも教養を磨くという意識をもって、積極的に読んでいきたい!

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