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要約と解説 落合陽一『デジタルネイチャー』は、Society5.0を考えるための必読書だ!

 

落合陽一 『デジタルネイチャー』(PLANETS)は、とても面白かったので読み終わった今も興奮しています。
もともとAIとかVR、5G、ブロックチェーンとか、フーンって感じの私でしたが、こんなことならしっかり関心をもって追いかけていきたいと思える本でした。

 

読みたいと思った理由?

 

もともとは『日本再興戦略』を読んで、落合陽一氏に関心を持ちました。彼が提唱する「デジタルネイチャー」について詳しく知りたいなと思ったのがきっかけです。
この本を読む前に、この本を読んで知りいたいなと思ったことは次の三つでした。

  1. デジタルネイチャーをは何か?そこでは、どんな変化が起こると考えているのか?
  2. デジタルネイチャーの世界観に産業医が関わるポイントはあるか?
  3. 世の中をより良くするヒントはあるのか?

この三つの問いに、どんな答えが得られたかは、最後にまとめます。

 

要約と感想

 

この本を私なりに一言で説明すると「Society 5.0を考えるための必読書」です。

 

society5.0も聞きなれない言葉かもしれません。内閣府の定義では、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」

要約

 

デジタルネイチャーとは、テクノロジーの進歩によって<自然>と<デジタル>の見分けがつかなくなる世界。言語を介さなくても現象を現象のままやり取りできるようになる。私達が当然のものと信じて疑わない働き方や幸福観、経済、社会、国家のあり方の限界を乗り越え、新しいあり方を生み出す考え方。

 

感想

 

この本には、落合陽一氏が自分の到達した視座をもとに、さらに新たな視座をつくろうとする人に向けて書かれた熱い想いが詰まっています。Society5.0って、第4次産業革命の先にある社会ということみたいですが、どんな社会になるのか???でした。内閣府が定義するSociety5.0とデジタルネイチャーがあまりにそっくりなので驚きました。この本は、そんな私に一つの方向性を示してくれたと感じています。

 

読む前の問いかけから得たもの その解説

理的というよりは、紡ぎ出される詩を読みつなぐような文章だと感じました。そのため、ニュアンスは分かるような気がするけど、他人に伝えようとするとうまく表現できません。私の理解が浅いせいかもしれませんが。。。まだ経験したことのない未来を描くって、書く側も読む側も大変な作業なんですね。

 

そこで細かい検証よりも、刺激を受けて想像を膨らませることを楽しむ方向でまとめてみました。筆者と一緒に、ブレーンストーミングするつもりで読むといいのかもしれません。

 

読む前の問いかけに対し、この本から得られた思う文章を5つ抜粋してみました。何が得られたのか、ひとつずつ解説を加えていきます。

 

二極化する働き方

人々の労働は、機械指示のもと働くベーシックインカム的な労働と、機会を利用して新しいイノベーションを起こそうとするベンチャーキャピタル的な労働に二極化し、労働者たちはそれぞれの地域でまったく違った風土の社会を形成するはずだ。
『デジタルネイチャー』落合陽一

AIといえば、「AIに仕事を奪われる!」みたいに恐怖をあおるな暗い未来を、私は思い描いていました。医者よりもAIの方が診断が速くて正確になるとも言われています。医者や弁護士だって、このままの仕事の仕方では、いずれAIにとってかわられるんだなという危機感を持っていました。
でもこの文章からは、少し異なる現実みのある未来を思い描くヒントが得られました。実際は、働く人が「機械に使われる側」と「機械を使う側」に分かれるという構図だったんですね。

 

人類の知恵を超えた恐ろしい人工知能、機械に仕事を奪われるというSFみたいな話ではないのです。雇う側と雇われる側の関係に、人工知能が入るだけと考えれば得体のしれない恐怖感はなくなりました。現在だって、病院にやとわれて仕事する医者と開業して自分で仕事を仕切る医者がいます。そこに機械が入るということなんだ!とすっきりしました。
そうであれば芸術やスポーツなどを楽しむことに生きがいを見出す人は、ベーシックインカム的に生活が保障されていれば仕事の面では機械に使われるのもありかもしれません。それとは異なり、イノベーションに挑戦することに生きがいを見出す人もいるでしょう。

 

ベーシックインカムについては、最近フィンランドのニュースが興味深かったです。
ヤフーニュース「「おカネをただで配りましょう」ベーシックインカム実験の結果はどうなった フィンランドからの報告
結論として、収入を保証することは幸福度の向上にはつながるが失業率の改善にはつながらなかったということです。落合氏の指摘するようにAI+BIだけでは駄目で、AI+VCによってイノベーションを起こすことの両立が必要なんだなと思いました。

 

働く人の健康に関心がある産業医としては、二手に分かれた労働者のどちらの働き方でも支援できるように準備が必要ですね。それ以上に私が気になることがあります。それはどちらを選択するかという場面で、人はどんなことを感じ、考えるのか。挫折を味わう人もいるかもしれません。選択の時のために、どんな準備や教育が必要か。これを考えてみたいと思いました。

 

仕事のストレスを考え直す

今日、知的生産に携わる人間は、時間労働によって身体的に疲弊するのではなく、頭脳の処理による負担で疲弊している。問題は「時間」よりも「演算ストレス」であり、近代が「タイムマネジメントの時代」であったのに対して、現代は「ストレスマネジメントの時代」なのだ。そこで求められるのは、ストレスをマインドセットから除外し、以下にストレスフリーの環境で働くかという発想だ。
『デジタルネイチャー』落合陽一

さっそく、私の仕事に大きくかかわる問題提起です。働き方改革や過重労働対策を進める世の中は、残業の上限を議論しています。私も働く人々を支えていて、時間管理は大事な取り組みだと考えています。しかし、中には時間を制限するだけではストレスの軽減にならない人たちがいることも事実です。例えば落合氏自身もそうですが、研究者や開発職のような働き方には何か違うアプローチが必要かもしれません。

 

残業時間を野放しにしていてはいけないのは、大前提です。たださらに、時間の問題だけではない仕事のストレスについて考え直す必要があるというのも、もっともな指摘です。特にストレスに対する専門家の功罪を考えると、反省すべき点でもあります。ストレスが悪であり、避けるべきだという考え方を広めすぎた弊害にも関心を持っています。別のところでも、考察したいテーマです。

 

経済のあり方が変わる分岐点

GoogleやFacebookの帝国主義的な世界と、LinuxやGitHubのオープンソース的な世界の対比構造、これは新しい時代の階級闘争であり、同時に宗教的対立でもある。
『デジタルネイチャー』落合陽一

そもそも資本主義の社会で働くということが、格差を生み、人々を苦しめているのかもしれないと思うことがあります。お金があるところにお金が集まる様子を見ていると、マルクスが階級闘争を叫んだ気持ちも理解できます。オープンソースの持つ理想郷的な雰囲気の世界が帝国主義的な世界と戦っているというのは面白い視点でした。資本家と労働者という対立の構造ではない社会を実現する可能性として、オープンソースの世界に賭けてみたいと感じました。

 

困っている人がいれば、お互いに支え合う精神。なんだかふわーっとした感じのものですが、大事にしたいし、守りたいものです。

 

新しい全体主義が訪れる?

コンピューターがもたらす全体最適化による問題解決、それは全体主義的ではあるが、誰も不幸にすることはない。
全体最適化による全体主義は、全人類の幸福を追求しうる。
現在の世界の枠組みを彫刻するための「新しい<自然>」の発明、これはその始まりに共有されるべき新しいビジョンなのだ。
『デジタルネイチャー』落合陽一

全体主義とか共産主義というと抵抗のある人がいると思います。私はソビエト連邦が崩壊する時代に立ち会わせたので、共産主義は失敗だったと学びました。資本主義にも富める者にさらに富が集まる悪いところがありますが、共産主義は理想とは裏腹に一部の人だけが甘い蜜を吸う社会になってしまうというのが許せません。結局、富を分配する人間が腐れていては機能しないということなんですね。

 

コンピューターや人工知能が発達して、人類の知恵を超える未来がくるといわれています。シンギュラリティ。その時、コンピューターが正しい心を持った神のような存在になっていれば、落合氏の描くビジョンが実現するでしょうか。

 

性悪説に従うような人間よりは、人工知能に任せる方が安全なのかどうか。それを設計する人が信頼できるかどうか。そもそも、悪意ある設計を回避する機能を持たせればいいのか。どんどん考えが広がりました。

 

東洋文明への期待と役割

<自然>と<デジタル>の融合。寂びたデジタルが行き着く<新たな自然>。それは東洋文明がはぐくんだ感性を端緒としたイノベーションになるはずだ。唯一神を持たず、近代的な<主体>や<個人>の概念に囚われない古典から接続された東洋的エコシステムは、思考や情報のトランスフォームをさまざまな形で可能にする。
『デジタルネイチャー』落合陽一

一度読み終わった時に、どんなビジョンを描いたらいいのか悩みました。もう一度、パラパラ眺めると『デジタルネイチャー』のまえがきに上記のようなメッセージがあることに気がつきました。

 

明治維新のあとから、西欧文明に追いつけ追いつけと頑張ってきた日本。いろいろ意見はあるものの、先進国に名を連ねるところまでは来ました。これからどうするか、西欧の真似ではなく自分たちの文化伝統の中に答えを探す必要があるというヒントだと思いました。

 

正直なところ、テクノロジー分野にはあまりなじみがありません。だけど、この本に刺激を受けて何か考えたくなりました。自分の分野でも、日本の古典や東洋文明によりどころを探してみたいです。それに気がつけたことは、『デジタルネイチャー』を読んで得た大きな収穫です。

 

 

まとめ

 

テクノロジーがもたらす未来について、この本を読む前と読んだ後では全く違う世界を描けるようになりました。最初に知りたいと思ったことについて、自分の理解をまとめます。

 

1.デジタルネイチャーで何を予想し、どんな変化が起こると思っているのか?
デジタルネイチャーとは、テクノロジーによって<自然>と<デジタル>の見分けがつかなくなる世界。そんな世界が実現すれば、例えば電話やメールで伝えていた情報が、映像や頭の中のイメージに近い形で伝えられるようになると感じました。

 

2.デジタルネイチャーが予想する世界に産業医が関わるポイントはあるか?
働き方が二極化する。AIの指示に従って仕事をするベーシックインカムに近い生活を送る「AI+BI」タイプ、AIなどの機械を使って新しいことにチャレンジするベンチャーキャピタル的な生き方をする「AI+VC」タイプ。「AI+BI」タイプは生きがいを見出すサポートが大切になりそうだし、「AI+VC」タイプは、燃え尽きたり仕事中毒にならないサポートが必要になりそうです。また、その選択のはざまで苦しむ人のケアも必要かもしれません。

 

3.世の中をより良くするヒントはあるか?
デジタルネイチャーの予想する世界が素敵なものになるかどうかは、オープンソース的な世界が帝国主義的な世界に勝てるかどうかだと思いました。対立的なものの見方を乗り越えられるかどうかが、世の中をより良くするためのヒントだと理解しました。

 

単純にテクノロジー凄い、進んでるな―ではない頭の中のとっかかりが出来ました。AIや5G、VRなどの技術が与える影響を考えつつ、これからの人生を過ごしていきたいです。とにかく話が多岐にわたるので、自分の興味のある分野の視点から読んでも楽しめそうです。
例えばテクノロジーには疎いけど、文系的な?社会とか政治とか経済に興味がある人には、興味深い本かもしれません。

 

 

 

 

この後読んでみたい本としては、参考文献にあった以下の本です。
ウィーナー『サイバネティックスー動物と機械における制御と通信』
グレゴリーベイトソン『精神と自然』
マックス・ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』

 

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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